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アイデア誌345 掲載文   「担当者の言葉」                 金 井  

*秀英体初号は日本語書体の傑作として多くの熱心なファンを持ち、秀英体のみならず日本のフラッグシップ書体として

極めて重要な書体です。それだけに期待も大きく、100年に渡って築かれた歴史的資産が平成の大改刻によってそれらを

見失うことのないようにと秀英体初号の改刻作業は極めて慎重な検討がなされました。

作業は、まず保存状態の良い「昭和4年の活字見本帳」に残されている初号の忠実な再現に努め、そこから新たに字種を

追加制作しました。忠実な再現といっても、同じように形体をなぞっても再現できるわけではございません。必ず、工学

技術の制約や、技量の足りなさ、新たな人間の思いや欲望が付加してしまいます。改刻の理念・自らの立ち位置を問われ

るものでありました。

初号誕生は、明治の幕開けとともに始まった日本の近代国家形成の夢と歩みが、ようやく形をなし、諸外国に対し自らの

パーソナリティーを問い意識できる時代にあったと思います。書体は私達自身の人格的は表象になります。秀英体初号漢

字のおほらかさと力強さは品性をそなえ、明治人の気概・ほのかに自信と誇りをも感じます、また、仮名はゆとりを持っ

た空間としなやかな強さを見せる仮名書風が反映され可読性と情緒性においても築地体と違った豊かな広がりを見せてい

ます。この時代は毛筆による筆書文化が生活のなかにあった時代です。偏や旁の構成(結構)は現代のわれわれの一般的

なデザイン構成感覚と一線を画す特徴を有しています。初号には線率濃度に独特の奥行きがあって筆書文化の豊かな感性

が反映されているようです。今回の改刻作業で多くの人々と、そういった秀英体に内在している精神性や文化性に想いを

馳せ、現在の私たちにが失ってしまった感性を再び確認することができたことは、私達が置かれている現在と、未来を見

つめるうえでの指針や起点を示されたこととして大きな喜びでありました。